亡国の三人姉妹 東京デスロック 11月25日 四国学院大学ノトススタジオ

めちゃくちゃ面白かったです。観終わったあと、しばらく呆然としてシートに座り続けてしまいました。

テキストは、チェーホフの「三人姉妹」です。戦争と革命前夜のロシア、地方都市に住む姉妹たちが生まれ故郷のモスクワに帰ることを夢見ながら結局果たせず、そこで生きていくことを決意する物語ですが、「亡国の」というタイトルどおり、戦争の劇であることがより色濃く出ていました。

舞台奥には一張のテント、その前にごちゃごちゃと散らかっている生活雑貨のようなもの。大小無数の穴が開いた布や箱。テントにも同じように無数の穴が。難民キャンプ、避難所、もしくは廃墟。そんな感じです。トータルで見るとただただぐちゃっとしているのですが、一個一個のアイテムが実は可愛い!
そしてこのセットは物語の背景や登場人物の変化とともに、登場人物たちによって動かされ再構成されます。

最初のうちはそのごちゃごちゃの中からおもちゃのモスクが大事に取り出され、姉妹たちの思いを象徴するように美しく光り輝き、そのほかのものも、物語の背景説明のために、控えめに配置されている・・・という感じなのですが、物語の中盤、結婚後次第に家の中を支配し始めた長男の嫁、ナターシャが文句を言いながら布団を広げ始めるあたりから、特に舞台の変化はめまぐるしくなります。

ちなみにこの布団を広げるシーンは、その後、登場人物たちの持ち寄った段ボールで床が仕切られる場面に続くので、帝国主義と世界分割を舞台上で再現しているんだと思うのですが、この世界が戦争に向かっていくんだという強い暗示となり、まるで初めて観る物語のようにハラハラしながら前のめりになって観てしまいました。

実際、私は戦争と革命が背景にある、やや情緒的な物語として三人姉妹を読んだまま、放置していたので、「戦争についてのお芝居」として観るのは初めてではあったのですが・・・

三人姉妹といえば、町を去っていく軍楽隊の音をバックに、夢破れた姉妹たちがそれでも希望を見出し、生きていくことを高らかに宣言するシーンがよく知られていますが、このシーンも独特で驚きました。

まず音楽が激しい。行進しながら絶対演奏できない音楽・・・SF映画の戦闘シーンみたいな音楽が派手に鳴っているんです。しかも爆撃音入り。ツッチャーンチャジャカジャカジャッジャッジャーン!バリバリバリ!ヒュルルルル、ドッカーンン!みたいな感じです。

そして、長女オーリガの叫びがめちゃめちゃドスが効いている。(オーリガ役の女優さん、低音の声がとても素敵だったんですよ。)

過酷な状況にさらされながらも、前に進もうとすること、希望を失っても絶望しないために、怒りをもってそこに立っている人。生きていくことってこんなに痛々しいことなんだ、という思いが胸に迫ってきました。

東京デスロックの公演を観るのはこれで二回目で、前回は「PEACE」という作品を観たのですが、このとき私は思いを語る人たちの中で、一言も発しない登場人物に共感しました。だけれど、今回は、なんとなく「私、怒ってもいいのかも」って、ちょっと思えました。そしたらちょっと泣けてきました。

それから、・・・チェーホフのテキストではやがて楽隊の音は遠ざかっていくのに、このお芝居では・・音が遠ざかることはありませんでした。当然去っていくものだと思っていたので、不安になり、そして驚きました。音楽はいつまでも遠ざからず、人々が去っていきます。

つまり・・・後には観客である私たちと、戦争だけが残されるのです。

人間の歴史が始まってから戦争がなかった日は一日もないという人もいます。戦争は私たちから去らない。最後に去って行った防護服を着せた子供をベビーカーに乗せ逃げ惑う父親の姿は、そして性懲りもなく未来に向かう私たちの姿なのでしょう。

だから最後に俳優さんが出てきて礼、みたいなのはありませんでした。よかった、と思いました。

ノトススタジオから出て呆然としていたら、同じく会場から出てきた女性が「よかった!私泣くと思わなかった!」と興奮気味に話していました。「私もだよ!!」と心の中で観戦者同士の健闘を称えあい(一方的にですが。)・・・満足したので一目散に帰りました。

でも帰りの車の運転中も興奮は収まらなかったので、二三個食べただけで車の中に置いていた「きのこの山」を物凄い勢いで食べてしまい、ふたつめの信号の時には食べきってしまいました。あらまびっくり。後で調べたら400キロカロリーくらいあるんですよ・・・舞台ってキケンですね。

デスロック