10月18日(日)四国学院ノトススタジオ 平田オリザ演劇展「走りながら眠れ」

かっこいいタイトル。「眠りながら走れ」・・・はやっぱりダメなんでしょうね・・・二回ほど言い間違えそうになりましたが・・・

 臨月の女性が歌を歌っている。生まれてくる子供に、こっちに来て仲間になろうと呼びかけている。「ただいま」といって男が帰ってきて、女は「おかえりなさい」と答える。男は大杉栄。大正時代に活躍したアナアキストです。女は伊藤野枝。日本史の教科書では関東大震災後の混乱期に大杉栄と一緒に殺された人という形でまず紹介されますが、女性解放運動の先駆けとなった「青鞜」の発行に携わっていた人で、舞台の中にも出てきますが、ファーブル昆虫記の翻訳をしたり、そのほかにもいろいろな本を書いています。

 このお芝居はベルリンで開催予定だった世界アナキスト大会に参加するために渡航した大杉栄がその目的を果たせないままフランスから帰国してから関東大震災が起こる直前までの数か月のことを伊藤野枝との会話で描いたものですが、パンフレットの役名は男・女とだけ書いてあります。会話はフィクションですが、出てくるエピソードはほぼ史実に基づいているとのことでした。

 行った先々で見聞きしたものの話をする大杉君と、それを聞く野枝さん。共通の知り合いの話をしたり、お風呂屋さんに行ったり、お金がない話をしたり。子供の話なんかもする。友達の共稼ぎ夫婦の会話に似てるよなあ。と、ちょっと人の家をのぞき見ているような恥ずかしさが・・・ただ、彼らの話題には当時の活動家の名前がいろいろ出てくるし、尾行やら牢獄やら物騒な言葉が出てきて、やっぱりこの人たちはちょっとただならない人たちなのかなあ、という気がします。

見ているとこの二人の間に流れる空気も、何だかただならない。大杉君は時々コントロールできないように声がでっかくなるし、野枝さんは天真爛漫に受け流しているようだけど、言葉の外にある何かを感じ取って緊張しているようにも見える。大杉君が野枝さんの頭を戯れにつっつき、野枝さんもきゃっきゃと言いながら同じようにつっつこうとするのだけど、ふとやめてしまう、というシーンがあったけど、ちょっと切なかったです。

風を切って走っていなければ息苦しくなってしまう人がいる。「止まったら死ぬんや!」というのは間寛平さんでしたっけ・・・ああ、マグロもそうか・・・。たぶん大杉君はそんな人だと思う。張り切って渡航したはいいけれど、肩すかしの連続。挙句投獄され、日本に帰ってきてもやはり難しい状況が続く。

だから、大杉君はとにかく楽しい話をやたらとする。野枝さんは楽しそうに聞く。だけど実は野枝さんも、高い志を持った人なので、「私、結構今妻っぽい感じなんだけど、これでいいのかなあ」なんて思っている。彼女も風を切って走るのがどういうことかを知っている人。お互い分かっているから、本当のところは避けている。カモフラージュするように、たくさん、たくさん、話す。そして風を切って走ることに恋焦がれている。

面白いんだけど、でも、だから、何?それは本当は何のことを言っているの?という会話がこれでもかと続く息苦しさに、そんなことを考えました。

そうそう、会話劇ということだったので、地味な舞台なんだろうな~と思いながら見に行ったら、舞台装置なんかはシンプルだったんですが、日にちが変わると俳優さんの衣装が毎回変わるのに驚きました。ていうか80分であんなに衣装が変わる舞台って私観たことないよ?!
早着替えに毎回ナーバスになる自称ダンサーの私としては舞台袖がどうなっているか大変興味深いところでした・・・。

走りながら眠れ1(2013)